仙台高等裁判所 昭和50年(行コ)3号 判決 1979年6月05日
控訴人 大黒幹雄
被控訴人 東北地方建設局長
代理人 宮村素之 山田巌 大衡淳夫 斎藤浩 ほか三名
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事 実<省略>
理由
一 当裁判所も、控訴人の本訴請求は理由がないものと判断する。
二 まず、原判決の理由一および二の1の「本件処分に至る経緯」の欄(原判決五五頁二行目から七二頁二行目までに掲げる説示は、次のとおり改めるほかは、当裁判所の判断と同じであるから、これを引用する。
原判決六五頁一行目に「二月まで」とあるのを「七月まで」と同五行目に「南部国道事務所」とあるのを「南部国道工事事務所」と、同六六頁末行日に「証人加谷軍一の証言」とあるのを「原審証人秋田泰治、同加谷軍一(ただし、一部)の各証言」と同六八頁三行目に「証人」とあるのを「原審および当審証人加谷軍一、原審証人」と、同四行目に「の各証言および原告本人尋問の結果」とあるのを、「、当審証人横田寿、同高橋直美、同橋本正道、同遠藤幸夫の各証言ならびに原審および当審における控訴人の本人尋問の結果」と、同八行目に「口頭を以つて」とあるのを「口答を以つて」と改める。
三 そこで、被控訴人がした本件懲戒免職処分の効力について判断する。
この点について原判決の理由二の2「処分理由の有無」の(一)の欄(原判決七二頁五行目から七四頁末行目までに掲げる説示もまた当裁判所の判断と同じであるから、これを引用する(ただし、七二頁末行の「認められ」の次に「る。原審および当審における控訴人の本人尋問の結果のうち、右認定に反する部分は信用することができず、他に」を加える。)。
次に、<証拠略>と二に掲げて引用した事実によれば、次の事実を認めることができる。
1 控訴人は建設省東北地方建設局四十四田ダム工事事務所に勤務し、昭和三八年四月一三日当時用地課調査係に所属していたもので、同日現在の職務は水没左岸登記事務、台帳および諸帳簿整備(土地関係)、補償工事用地買収関係を担当することとされ、同年八月六日(以下「同年」を省略する。)現在の職務は登記事務(分筆地形図作成)を担当することと定められ、上司から工程表に従い次のような職務を遂行するよう指示を受けていた。
1 四月から五月下旬まで代位登記嘱託事務
五月下旬から六月初めまで水没買収用地杭補植作業
六月初めから六月中旬まで給水設備敷および送電線路敷借入に関する業務
六月中旬から八月上旬まで残地補償に関する業務
八月上旬から一〇月下旬まで代位登記嘱託事務
一〇月下旬から一一月下旬まで水位流量観測所敷借入に関する業務
2 ところが、控訴人はその勤務時間中に組合の活動に従事するためとして欠勤をするので、東北地方建設局四十四田ダム工事事務所長吉井弥七、同事務所用地課長吉田耕三らは再三再四控訴人に対し、欠勤ないし職場離脱をやめ職務に従事するよう命令したが、控訴人はこれを無視し、あるいは、反抗的な態度に及んで、これに従わなかつたものである。すなわち、
(一) 控訴人は、五月一三日で年次休暇の期間があと二時間だけになつているのに、翌一四日からも届出もせず欠勤をしていたため、同月二三日午後三時四五分ごろたまたま自席に戻つてきた控訴人を見とがめて吉田用地課長が注意をしたところ、控訴人はその二、三分後に自席を離れて戻つてこなかつた。
翌二四日正午ごろ、吉田用地課長は吉井所長の指示により岩手工事事務所に行き同所工務課において組合の用務に従事していた控訴人に対し、長期間無断で職場を離れ、岩手工事事務所に来ていることについて注意を与えたうえ、職場に帰り仕事をするよう命令したが、控訴人は、「今日は忙しくて行けない。来週から出る。」などと返事をして、右命令に従わなかつた。
(二) このようにして欠勤をくりかえしていた控訴人は吉井所長に対し、「去る七月二七日にひらかれた第一回全建労東北地本岩手県協議会総会において県協議会(常任役員)に選出されたのでよろしくおとりはからい下されるよう」との申し入れ書を差し出した。
(三) これに対して、吉井所長は控訴人に対し、翌八月一日付をもつて「右選出は当事務所の業務と全く関係がないので、当所としては何等の便宜も与えることはできないこと、なお、控訴人の最近における勤務状況を見るに組合業務その他のため欠勤することが極めて多く、業務に支障を来しある状況にあることは公務員として適当なるものとは認められないので今後このようなことのないようにここに厳重なる注意を促す」旨、同年一月から七月までの出勤状況(勤務を要すべき日数一七六日、勤務をしない日数五二日)をつけて回答をした。東北地方建設局では、控訴人は、岩手県協議会議長に選出されただけで、東北地方本部の役員には選出されなかつたものであるとみていた。
そして、八月二日吉井所長は岩手県の各工事事務所長および監理所長に対し、右のとおり控訴人の申し入れに対して通告をしたので、控訴人が今後県協業務により貴所を訪ねた際は厳重なる注意を与えられたい旨の協力を依頼した。
(四) しかし、控訴人はこれを改めようとしなかつた。
八月一日午後零時一五分ごろ、吉田用地課長は、組合の用務のため岩手工事事務所に出向いていた控訴人に対し、電話をもつて四十四田ダム工事事務所に帰つて仕事をするよう命令したが、控訴人は、「今日はどうしても行けない。明日行く。」などと言つて、右命令に従わなかつた。
八月五日午前九時ごろ、吉田用地課長は、組合の用務のため岩手工事事務所に出向いていた控訴人に対し、電話をもつて、同月一日に命令したとき、控訴人は明日行く旨返答しておきながら、翌二日および翌々三日の両日も欠勤したことについて注意をしたうえ、すぐ事務所に戻つて仕事をするよう強く命令したが控訴人はこのときも、「今日は忙しくて行けない。」ということを答えただけで、右命令に従わなかつた。
八月六日午後一時ごろから二〇分間位、吉田用地課長は用地課員全員に対し、職務の一部分担がえについて説明を行い、特に控訴人に対しては分筆の地形図を作成するよう個別に仕事を命じたが、控訴人は「仕事はしない。仕事をしに来たのではない。今までの県協議長だつてやつていない。」などと言つて職務に従事せず、吉田用地課長が、「その件については所長から注意書が行つているはずだ。」と言つて再度仕事に従事するよう命令したが、控訴人はこれを無視して右命令に従わなかつた。
八月八日吉井所長はこのような控訴人の態度を遺憾とし、所長室において、吉田用地課長および小野庶務課長を立ち会わせて「さきに書面をもつて控訴人の勤務状態の改善につき注意を促したが、その後も上司の命令に抗し職務を怠り無断欠勤を続けている現状は公務員として許し得ざる行為である。よつて重ねて注意を喚起するとともに即刻職場に復帰し業務に専念するよう命ずる。」旨の書面を読み上げたうえ、手渡し、さらに職務に従事するよう口頭で命令したにもかかわらず、控訴人は、「当局と地本とで話しあつて決めることだ。所長の命令には従わない。」などと言つて、右命令に従わなかつた。
(五) 八月一五日建設大臣河野一郎は全職員に対し「職員が職員団体を組織し、職員の勤務条件の向上のために適法な手続きに従つて平静かつ秩序ある組合活動をすることは、好ましく、歓迎するところであるが、職員団体といえども、法令の範囲を免脱し、違法な慣行をいたずらに固執することが許されないのは当然であり、職員団体の業務に専ら従事する場合においては、所定の手続を経たうえで行なわなければならない。」と訓示し、これに従い、建設省では、本部に対しては事務次官から、地方本部に対しては地方建設局長から、本部および地本の役員で組合事務に専従する者は八月三一日までに専従休暇の承認を受けること、県協あるいは支部の役員等が組合業務に従事するときは、年次休暇の承認を受けること(これらの組織は人事院に登録されていないので、専従休暇は認められない)。これらの組合役員が九月一日以降専従休暇または年次休暇の承認を受けずに組合業務に従事するときは、法令の定めるところに従い、所要の措置をとることを通知し、八月いつぱいで、ヤミ専従を解消することにした旨、建設大臣官房人事課発行の「職員」で明らかにした。
これに基き、東北地方建設局長は、八月一五日付で、東北地本の執行委員長に対しては、「全建労東北地本の役員である者に今後も引き続き専ら組合業務に従事させようとするときは、すでに人事院規則に基づく専従休暇が与えられている者を除き、本年八月三一日までに専従休暇の願いを提出させ、その承認を受けたうえで、組合業務に従事させるようにされたい、また今後は東北地本の役員である者については専従休暇又は年次休暇が与えられない限り勤務時間内において組合活動に従事させないようにされたい旨通告し、同執行委員長秋田泰治、同書記長加谷軍一、同執行委員高橋忠一、同上野直子に対しては、専従休暇願の提出等についてと題して専従休暇又は年次休暇が与えられない限り、今後は職務に従事することを命ずる旨を通告し、同様に同副執行委員長佐藤令司らに対しても、勤務時間内において組合業務に従事しようとするときは専従休暇又は年次休暇の願いを提出し、その承認を得てから行われたい旨を通告するとともに、昭和三七年度の同書記長宮野賢一、同執行委員本宮昭三に対しては、今回の東北地本の役員改選によりその役職を去つたのですみやかに従前の職務に復帰することを命ずるとともに、今後勤務時間中に組合業務に従事する場合は年次休暇の願いを提出し、その承認を得てから行なわれたい旨を通告した。
これを受けて、秋田泰治、加谷軍一、高橋忠一、上野直子は、八月三一日付で「昭和三八年九月一日より一年間全建労東北地方本部の役員として職員団体の業務に専念するので、人事院規則一五―三に基づく休暇を承認されるよう」との専従休暇願を提出し、東北地方建設局長からいずれもその承認を受けた。
(六) 吉井所長もまた控訴人に対し、八月一五日付の書面で「控訴人の勤務状況は従来極めて不良であり、出欠常ならず業務に支障を来たすこと多大であつたので、再三にわたり書面および口頭をもつて正常な勤務に就き職務に専念するよう警告してきたが、本日一二時建設大臣訓示を告示し、機関誌「職員」を配布し、その趣旨の徹底を計り勤務の正常化を強く要望したにもかかわらず、本日一三時三〇分以降無断で職場を離脱し業務を怠つたことは公務員として極めて遺憾な行為である。よつてここに重ねて注意を喚起するとともに即刻職場に復帰し、業務に専念するよう命ずる。」旨命令をした。
次に、吉井所長は、吉田用地課長を通じて、控訴人に対し、九月一〇日、控訴人が同月七日および九日届出もせず欠勤をしたことについて口頭で注意をするとともに、「控訴人は従来組合業務等のため欠勤することが極めて多くこれがため当所における業務に支障を来しているので再三に亘り書面をもつて注意を促してきたにもかかわらず、九月七日および九日またも職場を放棄し業務を怠つたことは公務員としての職務専念義務に反するものと認められるので今後このようなことのないようここに書面をもつて厳重に注意する。」旨の書面を交付した。
続いて吉井所長は、吉田用地課長を通じて、控訴人に対し、一〇月四日、控訴人が同月二日および三日届出もせず欠勤をしたことについて口頭で注意をするとともに、前同様のこのようなことのないよう厳重に注意する旨の書面を交付した。
(七) 次に、さきに吉井所長から協力を依頼されていた岩手工事事務所では、組合の活動に従事するためとして同所に来所していた控訴人に対し、同副所長菊地仁郎から、次のとおりその都度口頭で至急職場へ帰るよう勧告するとともに、その旨を記載した書面を交付して注意をした。
八月五日午前一〇時三〇分
同月七日午後三時
同月一五日午後二時
同月一六日午前九時四〇分
同月二七日午後二時四〇分
九月三日午前一〇時三〇分(ただし、書面は同月五日午前一〇時五分に交付した。)
同月五日午前一〇時五分
石渕ダム管理所長もまた、一〇月二一日、組合の活動に従事するためとして同所に来所していた控訴人に対し、口頭で至急職場へ帰るよう勧告するとともに、その旨を記載した書面を交付した。
(八) 控訴人は、一〇月一七日、翌一八日から同月二六日まで組合用務専従のためとして人事院規則一五―三により休暇を与えるよう休暇願を提出した。
これに対して、吉井所長は、小野庶務課長を通じて、控訴人に対し、同月一七日、「控訴人は人事院に登録された職員団体の役員とは認められないので人事院規則による専従休暇は与えられない、なお、組合用務については勤務時間外にされたい」旨回答をした。
そこで、控訴人は同月一七日「翌一八日から同月二六日まで組合用務のため欠勤する」旨の欠勤届を提出して欠勤するとともに、同月三〇日にも「翌三一日から一一月二日まで組合用務のため欠勤する」旨の欠勤届を提出したまま欠勤した。
これに対して、吉井所長は一〇月三〇日付で「同月一七日付および同月三〇日付の欠勤の届出については承認しない。今後組合用務については勤務時間外にするよう重ねて注意する」旨の書面を控訴人に郵送して回答をした。
しかし、控訴人は一一月五日にも「午後一時から一一月七日まで組合用務のため欠勤する」旨の欠勤届を提出したまま欠勤した。
これに対して吉井所長は同月八日「右欠勤の申出は承認しない。組合用務は勤務時間外にするよう」重ねて注意した。
ところが、控訴人は一一月一九日「午後三時から五時まで組合用務のため欠勤する」旨の欠勤届を提出し、吉田用地課長から口頭で承認されない旨をいわれたのに、ききいれないで欠勤をした。
吉井所長は同月一九日付で右欠勤の申出については、「従前のとおりこの種の欠勤は承認しない。組合業務は勤務時間外において行うよう重ねて注意する。尚屡次にわたる注意を無視し、しばしば欠勤を重ねている控訴人の行動は公務員として適切なるものとは認められないので法に照らし処分されることもありうる」ことをつけ加えた書面を作成し、吉田用地課長を通じて控訴人に交付した。
(九) 東北地方建設局長は、このような組合の業務に従事するためとする控訴人の欠勤に対して、吉井所長の報告に基き、「控訴人は昭和三八年五月中旬以降の勤務状態が甚だしく悪く、特に、同年七月以降においては吉井所長等管理者からしばしば口頭あるいは文書をもつて職務に復帰し執務するよう命ぜられたにもかかわらず、依然としてこの命令を無視して職務を放棄し、勤務すべき日数の約半数を欠勤した。」として懲戒免職に付することとし、同年一一月三〇日控訴人を懲戒免職にした。
以上の事実が認められる。
四 控訴人は、被控訴人がとりあげた控訴人の欠勤は、従前の労働慣行に従つたものであるから、違法とすべきでない旨を主張するが、この点に関する判断は、次のとおり付加訂正するほかは、原判決の理由二の2の(三)の欄(原判決七八頁六行目から八三頁六行目までに掲げる説示と同じであるから、これを引用する。
1 原判決七九頁九行目の次に左の説示を加える。
「仮に、控訴人が昭和三八年七月二〇日東北地本の定期大会において地本の執行委員に選出されたものであるとしても、<証拠略>によれば、東北地方建設局では、昭和三八年七月五日付の全建労とうほく(全建労東北地本の機関誌)に、昭和三八年度の組織方針案として、地方本部の体制を強化し、県協体制の強化のため、県協議長の地本執行委員の兼任をとき、県協議長を県協活動に専念させ、責任体制を明確にすることとしたと記載され、同月二四日付の岩手県協速報(全建労岩手県協議会教宣部発行)には、東北地本の定期大会が一八日から三日間開かれ、書記長のほか執行委員長、副執行委員長、常任執行委員、非常任執行委員、会計監査委員に次の人たちが選任されたとあるなかに控訴人が入つていなかつたことと、控訴人は同月二七日に東北地本に設けられた岩手県協議会議長(右協議会は当局から人事院に登録された職員団体として認められていなかつた。)に選出されたことが記載されていたことから、控訴人に対し、東北地本の執行委員ではないとみていたことが認められ、右事実によれば、東北地方建設局の右取扱には落度があるものということはできない。<証拠略>によれば、昭和三九年三月二五日付の全建労とうほくにこのたびの地方委員会で地本執行委員の補充として控訴人のほか五名の者が当選したことが記載されていることが認められ、これを裏書しているものということができる。」
原判決八一頁五行目の「これらの事実に」から同九行目までを次のとおり改める。
「控訴人についてみても勤務時間中に組合の活動に従事したことには昭和三八年五月一四日から前記認定のように欠勤したものとされ、吉田用地課長らからも注意を受けていたのであるから、当時控訴人が東北地本四十四田支部長として勤務時間中に組合の活動を自由に行うことができるものとされていたというわけにはいかない。」
原判決八二頁七行目の「種々交渉は」から同九行目までを次のとおり改める。
「種々交渉がもたれていたが、昭和三八年には欠勤届を提出してこれをしなければならないものとされていて、勤務時間中に組合の活動を自由に行うことができるものとはされていなかつたことが認められる。」
2 公務員は、国民全体の奉仕者として、公共の利益のために勤務し、かつ職務の遂行にあたつては、全力をあげてこれに専念しなければならないものである。国家公務員法(昭和三八年当時施行されていたもの。以下同じ。)一〇一条もまた、「職員は、人事院規則の定める場合を除いては、その勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職責遂行のために用い、政府がなすべき責を有する職務にのみ従事しなければならない。職員は、政府から給与を受けながら、職員の団体のため、その事務を行い、又は活動してはならない。」ことを定め、職員団体に関する職員の行為について、人事院規則一四―一は、「職員は右一〇一条に基き、規則一五―三に定める条件の下で、もつぱら職員団体の業務に従事することができる。」ことを定め、同一五―三は、「所轄庁の長は、職員に対し、その申出により、公務に支障のない限り、職員団体の業務にその代表者又は役員としてもつぱら従事するための休暇を与えることができ、職員は、この規則による休暇を与えられた場合の外は、職員団体の業務にもつぱら従事することができない。」旨を定めていて、この外は、職員があらかじめ年次休暇等により職務専念の義務が免除されているときに限つて、専従にいたらない範囲で職員団体の活動に従事することができることとされているものである。
したがつて、仮に、控訴人のいうような勤務時間中における組合活動の自由の慣行が職場で行われていたとしても、その効力を認めることができないことはいうまでもないところである。これを事実たる慣習として当事者を拘束するものとみることはできない。このような慣行はヤミ慣行ともいうべきものであつて、事実上まかり通つてきただけのことで、許されないものであることは明らかであるから、たとえ、このような活動が相当期間継続したからといつて、正当な慣行として定着する筋合いのものではないというべきである。せいぜいのところ使用者においてこのような職員の活動についてこれまで慣行として通つてきたため、これについて問責権を放棄するという効果をもつにすぎないものというべきである。
このような違法な慣行は、使用者側においていつでも将来にわたつて変更することができることはいうまでもないところであるし、その変更する手続についても使用者側において合理的な期間をおいて通告をすれば廃止することができるものと解するのが相当である。
五 以上のとおり、控訴人が合計五一〇時間を欠勤し、上司から口頭または文書をもつて再三再四職務に従事せよとの注意または命令が出されたにもかかわらず、これに従わなかつたことは、国家公務員法一〇一条一項、九八条一項に違反し、同法八二条一号および二号の懲戒事由に該当するものといわなければならない。
六 ところで、国家公務員に懲戒事由がある場合において、懲戒権者が懲戒処分をすべきかどうか、また、懲戒処分をするときにいかなる処分を選択すべきかは、懲戒権者の裁量に任せられているものと解すべきであるから、懲戒権者が右の裁量権の行使としてした懲戒処分は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められるものでない限り、その裁量権の範囲内にあるものとして、違法とならないことは、既に最高裁判所の判例とするところである(最高裁判所昭和五二年一二月二〇日第三小法廷判決、民集三一巻七号一一〇一頁)。
これを本件についてみるに、以上に認定した控訴人の行為の態様等諸般の事情を考慮すれば、本件懲戒免職処分が社会観念上著しく妥当を欠き、懲戒権者に任された裁量権の範囲を超えたものということはできない。控訴人の行為は決して情状が軽いものということができないし、控訴人がこのように欠勤を繰り返したことは、全体の奉仕者としての自覚と責任の欠如を示すものとみられても、やむをえないところである。
この点に関する原判決の理由二の4「懲戒権の濫用」の欄(原判決八五頁末行から八七頁五行目までに掲げる説示は当裁判所の判断と同じであるから、これを引用する。
七 控訴人の、本件懲戒免職処分は不当労働行為である旨の主張に関する判断は、原判決の理由二の3「不当労働行為の成否」の欄(原判決八四頁一行目から八五頁一〇行目まで)に掲げる説示と同じであるから、これを引用する。
前記認定の事実によれば、本件懲戒免職処分は控訴人の前記の違法な行為を理由として行われたものであることが明らかであるから、控訴人の右主張は理由がない。
八 以上のとおりであるから、本件懲戒免職処分には取り消すべき瑕疵がないといわなければならない。
よつて、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、民事訴訟法三八四条、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 佐藤幸太郎 武田平次郎 武藤冬士巳)